P.Fドラッカーのマネジメント・リーダーシップによるコミュニケーション論~信頼を示すということ~
目標を達成するためのコミュニケーション
コミュニケーションの困難さは、いつの時代も私たちの苦悩そのものです。家庭でも会社でも、私たちには否応なしに、質が高く優れたコミュニケーションが要求されています。
もちろん、ここで言うところのコミュニケーションに優れているということは、誰とでも何気なく雑談するのが得意だ、といったことを意味しません。実際、雑談に忌避感がないことは、優れた特質ですが、ここで言うコミュニケーションとはより限定的な意味です。
コミュニケーションは、ビジネスの場や夫婦関係で共通の目標を設定する所から始まります。こうして目的とするゴールをふまえた上で、そこに至るまでの具体的な過程を実際に日々の生活で歩き続けることになります。その過程における相互の理解、これが本記事で示させて頂くコミュニケーションです。
現実問題として、家や会社で社会人として求められているコミュニケーション能力は、こうした現実の問題解決のための唯一の手段です。私たちの多くは一人で仕事を完結させられません。
ところで、こうした組織における問題解決のためのコミュニケーションを半世紀以上前から考察した有名人がいます。ピーター・ドラッカーと呼ばれる社会・政治学者です。“マネジメント”の発明者として知られています。
彼は次のように経営に関する大切な用語を定義しました。
・マネジメント:経営資源(人・モノ・金)の効率的な活用をすること。
・リーダーシップ:具体性のある指示を行うこと。
つまりマネジメントとは、観察による効率性の追及が主体であり、それらは市場調査、非商品化、発明によって成されると彼は説明しました。
今回は、ドラッカーが示した幾つかの概念を用いて、目標を達成するまでの二者間のコミュニケーションをいかに行うべきかを考えます。具体的な題材としては、管理職が部下に初めて仕事を任せる際に発生すると思われる状況をモデルとしましょう。この企業の労働環境にはある程度、余裕があって人材の育成にも時間を使うことができます。
目標と評価基準を明示すること
仕事を任せる訳ですから、部下に主体性をもって取り組んでもらうことが前提とします。管理職側には不安があるかもしれません。しかし、初めから余りにも具体性のある指示を出し過ぎると、自律的・主体的なあり方は失われてしまいます。
まず、その仕事における目標を互いに確認します。さらにその上で、管理職側の評価基準を明確にすることが大切です。この評価基準は必要最低限の数で、できるだけ客観的な指標でないといけません。
なぜなら管理する側として一貫性のある基準で君を見ているよ、と示すことが部下の目標に対するモチベーションを喚起する上では、重要だからです。
こうした現象をドラッカーは「知識労働者」という言葉で説明しました。「知識労働者」とはボランティアと同じで、仕事そのものにやりがいを得ようとする人々のことです。「知識労働」はそれ自体が主体的な欲求であるがゆえに、情熱と意欲を燃やせます。そのためにはスポーツのサッカーのようにゴールとジャッジが客観的な基準で運用されている必要があるのです。
モチベーションが向上しない部下にどうするべきか?
仕事に対する部下のモチベーションが高いならば、管理職にはいくらでもコミュニケーションのとりようがあります。部下によるミスが立て続けにおきた時は、共に悩んで解決までの具体的な道筋を探っていけば良いでしょう。評価基準から見て順調ならば、褒めれば良いのです。時間と共に信頼関係は深まっていきます。
問題は、評価基準を満たしていないにも関わらず、仕事に対するモチベーションや意欲が部下から感じられない時です。仕事熱心な管理職ほど怒りたくなるかもしれませんが、こうした意欲の問題は本人の個人的な価値観や精神状態を反映していることが多いようです。つまり、本人の生来の気質が仕事をする上での障害になっています。本人にも短期的には、手の打ちようのないトラブルです。
1. ヒアリングを行う
ヒアリングとは相手の状況を把握するために直接の対話で情報を収集することです。
ある個人は、性別から始まって、友人・恋人・仕事・家などの社会的状況に応じて様々な属性を持ちます。それらを全て聞き出せるはずもないし、またプライバシーの観点からもそれはありえません。
しかし、ある程度、漠然とした形で良いのでまず部下という人物の人となりに触れた上で、管理職自身に求めているニーズを、想定・想像する必要があります。必ずしも部下が責任者に求めていること全てが言語化されるとは限らないからです。実際にそれとなく聞き出してみるのも良いでしょう。
仕事に対するビジョンも問題です。その部下にはその仕事が創造的な「知識労働」とは感じられていないのかもしれません。任せる仕事を変えることで解決する可能性はあります。しかし、仕事することそのものに問題を抱えている場合、問題は難航するでしょう。これはその会社で社会人として成長すること自体にネガティブなビジョンを持っているということに他ならないからです。
上で挙げた例は大きな問題を抱えた部下の例でしたが、人間は誰もが多かれ少なかれ問題を抱えています。ここからは部下の問題を把握した上で、どのような姿勢で管理職が対処していくべきかを詳述します。
2. 忍耐強くある
部下に対して忍耐できることは不可欠です。ワンマンな管理職ほど、上手くいかない時は、仕事を取り上げて自分で終わらせたくなるかもしれませんが、そうした独善的な態度は部下を萎縮させますし、成長の機会を奪ってしまいます。
短期的な効率だけを考えるならば、代行しても構いませんが、長期的な視点で考えるとこれは全く好ましくありません。いかに優れていようと一人の人間にできることは限られているからです。
大切なことは、自分と相手をしっかりと分けて考えることです。仕事を代行すれば、必然的に自分の考え方、方法、態度を押し付けることに繋がりかねません。出来ていないことに対しては、事実として指摘した上で、寛容であるべきです。特に内心不満があっても、反射的に表に出すべきではないでしょう。そうした態度を、その部下だけではなく周囲も見ています。
前述のヒアリングとも関係しますが、常に仕事中は相手を冷静に観察すべきです。これによって管理職に求めていることや、仕事への今の関心を把握して、コミュニケーションを賢く取ることができます。
まとめ
コミュニケーションを高いレベルで行うにはリーダーシップが不可欠です。それは家庭内でもそうですし、会社内においてもそうです。特にグループならばリーダーになれる性質を持った人間が最低限一人はいないと、「船頭多くして船山に登る」になってしまいます。
本記事でモデルとしたのはある程度、時間を掛けて人を育てる余裕があるような労働環境です。例えば、いわゆるブラックな労働を強いる飲食店などならば、高い水準のコミュニケーションが必要とは決して言えないでしょう。しかし、そうした人を使い潰すような組織に人を成長させる力はないでしょうし、労働者としてその企業で労働する必要があるかどうか疑問です。
またリーダーシップを発揮するには前提として信頼関係がないといけません。いかに優れた知識や技術を持っていようと、責任者に信頼がないならば、その人は持っている力の半分も発揮できないでしょう。
あくまで彼は外部からやってきたマネージャーであって、リーダーにはなれなかったのです。