マネジメントに重要なコミュニケーション
経営者やビジネスの現場で、人との関わりは必須となります。
上司、部下、顧客その他コミュニケーションがスムーズにいくかどうかにより生産性にも影響があります。
今回はP.Fドラッカーのマネジメントから、コミュニケーションの中で大事な点をお伝えします。
ひきかえなく信頼を示す
それは部下が落ち込んでいるときの、何気ない挨拶の仕方かもしれません。また、失敗の際に厳しく叱責することでこれを表すこともできるでしょう。
信頼は、人間が成長する上で重要な要素の一つです。信頼を寄せられることで、もう一方も相手に信頼を寄せ、コミュニケーションの質が高まり、結果として互いの様々な成長に繋がります。
信頼の示し方はケースバイケース、多種多様です。ここにあって頼れるのは個人的な感覚とヒアリングで集めた部下に関する情報です。共通の関心事があれば、それについて話してみるのも良いでしょう。少し距離を置いて、相手から話しかけてくるのを待ってみても良いかもしれません。いずれにせよ、決まった正解がある訳ではないですが、ここでは一つ面白い例を紹介させて頂きます。
スペインのサッカー界にはジョゼップ・グアルディオラという人物がいます。稀代の戦術家としてサッカーファンには有名な名将です。彼はFCバルセロナで空前の大成功を収める前に、FCバルセロナのカンテラの指導者をしていました。カンテラとはプロになる前の育成年代(10代前半から20代前半)における選手たちを集めたユース組織のことです。
ある日、伸び悩んでいる若い選手がいました。グアルディオラは彼を少し呼び出して、サッカーの指導ではなく、家族との個人的な日常を単なる雑談として語ります。
その雑談の後で、彼の練習中の表情や態度はより明るいものに変わり、次の試合で彼は2ゴールを決めました。
グアルディオラは彼の求めていることに既に気づいていました。それは彼個人に監督から信頼を向けて欲しいということです。そしてグアルディオラは、その暗黙の合図に見事に答えました。パーソナルな話を彼だけに特別にすることによって。そして彼からより優れたパフォーマンスを引き出した訳です。
このように部下の求めていること、つまりニーズを、時には観察によって想像・補完することが、管理職には求められています。
障害を抱えていても共に歩き続けるということ
時間を掛けた部下の育成には常に、「企業は本来、効率を大切にすべき営利企業ではないか」という疑念があります。これは確かにその通りです。
しかし、特に中間管理職に必要なのは、現場で人を育てるという信念に他なりません。なぜならば、育てることに失敗し続ければ、組織自体が長期的に先細っていくことは明らかですし、そもそも全体の営利を追及するのは中間責任者より上の役目だからです。
前述したサッカーの監督の例のように、育てることには信頼が不可欠です。そしてこれらは目に見えない価値であって、非商品的で個性的な価値と言えます。
学歴、年収、経歴、実績などが客観的に明示できる有形資産であるとするならば、人を信頼し、信頼される力は無形資産であると言えます。より大切なのは目に見えず、判断することが難しい無形資産です。なぜなら、学歴も年収で選ばれているならば、同等の程度を持った誰かで十分に代替しうることが可能ですが、企業や人からの信頼という無形資産は、その人個人に付属するもので、その人だけの価値だからです。
ドラッカーはマネジメントにおける非商品化(非コモディティ化)に言及しています。企業は製品やサービスを顧客に提供しますが、それらが商品化し、経済的な価値だけで顧客に選別されるようになると、経済的な利益が減ってしまうという逆説的な事態が起こりうるのです。
これはスーパー間の安売り競争などからも明らかでしょう。残念ながら、商品として見なされることは多くの製品やサービスにとってやむを得ませんが、これは経済的な価値という観点から見ると良くない状況なのです。
これが人間であるならば、なおさら良くない事態と言えます。経済的な価値、特に年収や労働時間だけで判断されることは、労働者にとって危機的です。もちろん学歴や経歴、実績も軽んじて良い訳ではありません。これらは客観的な指標になりえます。しかし、いかに優れた有形資産を有していようと、特定の誰かから信頼を失えばもうその誰かにとってあなたの学歴等に意味はないと言ってよいでしょう。
コミュニケーションの深化によって具体性のある詳細な指示が通る
信頼関係が深まることで、相互コミュニケーションの質が高まります。これによって時には、以前よりもさらに具体性のある指示を出すことができます。
誰しも経験のある状況でしょうが、相手にまだ大した信頼がないにも関わらず、細部に渡って具体的な指示をされるとイライラします。他人に自らのパーソナルスペースを侵害された気持ちになるからです。
しかし、仕事に関して高いレベルで連携するには時には、詳細な部分で突っ込んだ話が必要になることがあります。こうしたいわば非常時に日頃の信頼関係がものを言うことは当然です。
また、周囲にグループとしての一体感があれば、より全体として効率的に動いていくことが可能になります。関係が網の目のように張り巡らされた組織は、より高いモチベーションをそれぞれに与え、優れた成果と個人の成長を全体にもたらすでしょう。
このように関係性が深化し、なおかつその中心に管理職がいることで、その管理職は初めて本当の意味でリーダーになりえたと言えます。
まとめ
ピーター・ドラッカーは、「concept of the corporation 会社の概念」を1946年に出版しました。この本は、組織の中の相互のコミュニケーションについてアメリカのジェネラル・モーター社を、観察・研究して得た知見が書かれています。彼は特に、上下関係の構造や社内政治のあり方、情報の流れ方、決定の下し方、自律的な管理が企業の成功を大きく左右することを発見しました。
ところが、こうして得た知見はジェネラル・モーター社では生かされることがありませんでした。アメリカの州政治からヒントを得て、それぞれのグループの分権的で自律的な管理に言及したことがジェネラル・モーター社に対する批判とみなされたのです。ですから、彼の得た「会社の概念」は当時のジェネラル・モーター社で生かされることはありませんでした。
あくまで彼は外部からやってきたマネージャーであって、リーダーにはなれなかったのです。